プラチナスターツアー ~ハーモニクス~ 第3話 Discord

 

(レコーディングスタジオにて)
P (今日は収録スタジオを押さえてのレコーディングだ。直前の千早の収録がつつがなく終わって・・・)
(次は、ジュリアと静香の番だ。ふたりとも、頑張れよ・・・!)
ジュリア 「チハ、お疲れ! 今度の曲もいい感じじゃないか。」
最上静香 「お疲れさまです、千早さん!」
如月千早 「ジュリア、それに・・・静香も。お疲れさま。ふたりは、例の新ユニットの収録ね。」
「できれば聞いていきたかったけれど・・・。あいにく次の仕事まで時間がなくて。でも、どんな歌になるのか楽しみにしているわ。」
最上静香 「は、はい・・・あの、ありがとうございますっ! 私、精いっぱい頑張ります・・・!」
如月千早 「ええ、頑張って。・・・ジュリアは明日、一緒に撮影の仕事だったわね。よければ話を聞かせて。」
ジュリア 「ああ、なんなら歌も聞かせるぜ。へへっ、じゃあ明日な!」
如月千早 「ふふっ、そうね。それじゃ、また。」
最上静香 「千早さんが・・・期待してくれてるなんて・・・!」
ジュリア 「ますます気合い入れていかないとな。よし、はじめようぜ、プロデューサー。」
P (こうして、ふたりのレコーディングが始まった。これまでどおり順調に・・・と、思っていたのだが・・・)
ジュリア 「ストップ! う~ん・・・。シズ、なんか噛み合ってなくないか?」
最上静香 「きっと私の歌が、ジュリアさんの歌に負けてしまってるんですよね。ごめんなさい・・・。」
ジュリア 「いや、シズが謝るようなことじゃない。ウチらはデュオなんだ。お互いに合わせていかないとな。次はもうちょっと、お互いの声を意識してみようぜ。」
「・・・よし、もう一回、頭から!」
P (しかし次のテイクも、その次のテイクも・・・)
ジュリア 「う~ん・・・。」
最上静香 「・・・。」
ジュリア 「プロデューサー。あんたは今のテイク、どう思った。」
P 「どう思うもなにも・・・。ふたりとも、まるで納得してない顔だよな?」
最上静香 「納得できるわけありません! 私に引きずられて、ジュリアさんの歌まで弱々しくなって。こんなの・・・!」
ジュリア 「いや、たぶん逆だ。あたしの歌のアラさが、シズのメロディを狂わせちまってる気がする。」
P (どっちも、ってところかな。うーん・・・)
収録スタッフ 「とりあえず休憩しますか? 今日中に録れなくても、帳尻は合わせられますから・・・。」
P 「そうですね・・・。よし、ふたりとも。いったん休憩にしよう。」
ジュリア・最上静香 「ああ/はい・・・。」
P (・・・まいったな。ここに来て、ふたりの歌い方がさっぱり噛み合わなくなってしまった)
(ピアノの経験に裏打ちされた、静香の美しい歌声と、ジュリアの、本能からの力強い歌声・・・)
(うまく噛み合えば、お互いに補い合ってどこまでも伸びていく。だけど、ぶつかってしまったら・・・)
ジュリア 「・・・。」
最上静香 「・・・。」
P (お互いを削り合って、弱め合ってしまう)
最上静香 「あの・・・プロデューサー。レコーディグの時間、延長できませんか?」
P 「スタジオには、この後の予定がもう入っている。ちょっと・・・無理かな。」
最上静香 「そうですか・・・。」
P 「それに、仮に延長できたとしても、このまま漠然と続けて良くなるとは思えないんだ。」
「すまない、俺の判断ミスだよな。今回の歌、ふたりともしっかりマスターしてくれたと思ったんだけど・・・。」
「ひとつの歌として、まだ噛み合ってなかったんだ。『二人の歌』には、なってなかったんだろう。」
最上静香 「『二人の歌』・・・?」
ジュリア 「かもな。あたしの歌、シズの歌にはできてた。お互いに好きに歌って、気持ちよかったよ。でも・・・。」
「それだけじゃダメなんだ。ふたりでどう歌うか・・・。どんなロックにするか、イメージを合わせないと。」
最上静香 「どんな・・・ロックに・・・?」
P 「でもスケジュール的に、録り直しは難しい。それで、さっきスタッフに言われたんだが・・・。」
「一応、これまでに録ったテイクの中から、合いそうなところを摘んでMIXする、という方法もある。」
最上静香 「そ、それは・・・。そうでしょうね。レコーディングって、そういうものですから。」
「もちろん、イヤですけど。でもスケジュールが動かせないなら、とりあえずは・・・。」
ジュリア 「冗談じゃない。断る、つーかムリだ。」
最上静香 「えっ。ジュリアさん?」
ジュリア 「ツギハギするったって、完成形が見えてないんだ。どう歌うか決まってないのに、摘みようがないだろ?」
最上静香 「そ、それは・・・。」
P 「そうだよな・・・。よし、これから掛け合って、何とかもう1回、収録させてもらう機会を作るよ。」
「収録スタッフとスタジオの都合的に、現実的なのは・・・明後日の夜、2、3テイク程度になると思う。」
最上静香 「明後日・・・って、すぐじゃないですか!? それも2、3テイクだけ?」
P 「そうだよな、時間もチャンスもほとんどない。でも・・・今はこれしか手がなさそうだ。」
「ジュリア、静香。明後日の夜までに『二人の歌』を仕上げてくれないか?」
ジュリア 「ああ、やり直せるなら、それで充分だ! 今度こそ、ふたりでこの歌をモノにしてみせる!」
「だよな、シズ?」
最上静香 「・・・っ。」
ジュリア 「・・・シズ?」
最上静香 「私は・・・できるなんて、軽々しく・・・言えません。だって、本当に時間がないし・・・。」
「まだ、どうすればいいかも全然・・・わからないし。それにジュリアさん、明日・・・仕事って・・・。」
ジュリア 「ああ。でも、シズだって、あきらめたくないだろ?」
最上静香 「そんなの当たり前じゃないですか! 私だって、ふたりできちんとこの曲に向き合いたいです!」
「でも・・・。私、できるって・・・思えない・・・。」
ジュリア 「シズ・・・。」
P 「・・・静香、うまくできないならできないでいいんだ。ただ、もう一回チャンスを作れるってだけで・・・。」
最上静香 「あ・・・、私・・・。あの・・・す、すみません!」
(静香がスタジオから走り去る)
ジュリア 「あっ・・・おい、シズ!」
P (ジュリアと静香の実力に甘えて、任せっきりにしてしまった俺の落ち度だ。信頼とは別の問題なのに・・・)
(どうにか『二人の歌』にたどり着いてほしい。・・・誰よりも当人たちが一番、そう思っているはずだ)

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